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  • 執筆者の写真smo inc

リーダーに必要な、心を鍛えるマインドフィットネス:イトーキ山田会長インタビュー

更新日:2023年9月6日

ビジネスキャリアを築くとともに禅を追求し、リーダのためのマインドフィットネスを展開している株式会社イトーキの山田会長に、禅とビジネスの関係、そしてリーダーに必要な資質についてうかがいました。



(インタビュー:SMO 齊藤三希子)

<こちらの記事は、SMOタブロイド誌「TOKYO 2021」からの抜粋です。タブロイド誌全編及び最新版の全編は、こちらよりダウンロードいただけます>


 





齊藤:山田さんがリーダーのためのマインドフィットネスをテーマに、Aoyama Treehouseを作られたきっかけは何だったのでしょうか?


山田:実は、がっかりされるかもしれないんですけど、僕の発案じゃないんですよ。アメリカのサンタフェに大きな禅堂があるんでけども、その拡張で資金調達をすることになったんですね。僕は銀行員時代にモルガン・スタンレーのトップをしていたティエリー・ポルテと

親しくしていて、彼が独身だった頃から30年くらい付き合いはあったけど、それまで一切禅の話はしてなかったんですが、はじめて「アメリカで禅堂の拡張の計画があるから、お前さん、お金集め上手だしちょっと助けてくれない?」って言ったのがきっかけですね。

「わかった、行こうよ!」と言って、サンタフェに一緒に行くことになったんです。

それからもう1人、フレッド・シュミットというティエリー・ポルテの片腕の男がいて、彼も一緒に行ったんですね。2日間の予定が終わって、3人で食事をした時にティエリーが「この世界は知らなかった!これがこれからの世界に必要なものだと思う!」と言ったんです。そうしたらフレッドも「俺も知らなかった。これからのビジネスに絶対必要な世界だ」と。それで一緒にやらないかという話になったんですけれども、僕は非常に抵抗感がありまして。禅というものはビジネスとは全く違うかなり深い世界で、そう簡単にわかる世界ではないので、断ったんです。でも、日本に帰ってきてからも度々アプローチがあって、彼ら

も座禅を始めたんですよね。「やってみて、やっぱり必要」だと。フレッド・シュミットが、彼の会社が持ってたビルの2階と3階を使ってやりたいと言ってきて、そこで僕もやっと「そこまで言うなら」となったのが本当の経緯なんですね。ですから、僕の発案では全くなくて⋯。そうして僕もマインドフィットネスというものがビジネスマンに必要だと徐々に理解していったんです。


齊藤:マインドフィットネス、という言葉が印象的です。


山田:これは僕がつけた名前でね、マインドフルネスをべースにして、宗教色を入れたくないので、禅ではなくマインドフィットネスになりました。ビジネスマン向けのメディテーションの手法を開発して、それにこだわって展開しています。


齊藤:逆輸入的のような形で入ってきたのが面白いですね。


山田:そう、逆輸入なんですよね。マインドフルネスというのがアメリカで非常に盛んになってきています。僕が使っているスマホにも、標準装備としてカームというマインドフルネスのアプリケーションが入っているんです。マインドフルネスがどういう形でアメリカでスタートしたのかというのを探ってみたんですよ。1967-68年にMITのジョン・カバット・ジンという男がMITの学生だったときに禅を始めて、彼は禅センターの勤務に就くようになって、禅のメディテーションの手法を、精神的な疾患を持った人々に使うことが非常に効果的だと発表した。例えば、躁鬱病とかストレスとか、そういう方々に精神療法の手法として取り入れたんですね。医学論文もたくさん出ていまして、マインドフルネス、瞑想の精神的な医療としての効果が非常に注目されましたでも、僕がやりたいのは、「リーダーのための」マインドフルネス。精神的な問題を抱えている人が正常に戻るということではなく、正常な精神をさらに健全で強い精神に鍛えていく。マインドフィットネスというのは要するにスポーツジムで体を鍛えるように心を鍛えること。この背景には、禅が追求している世界があるんです。


齊藤:実際に、著名なリーダーも禅を実践していると聞きます。


山田:スティーブ・ジョブズは一生懸命座禅をしたと言われています。それから、セールスフォースの創業者であるマーク・べニオフもやっています。ベニオフは面談して一緒に座禅も組みました。彼らは、単純に精神的に正常に戻るだけじゃなく、その先の効果が非常に大きいことに気がついているんですね。だからやっている。あの方々は効果がなければ絶対にやりませんから。


齊藤:座禅で精神が鍛えられていくのは、どういったプロセスなのでしょうか?


山田:座禅、瞑想の本質は、要するに自己を忘ずるということです。つまり他人と自分の

間の垣根が低くなっていくんです。これが本質なんでね。他人と自分の垣根が薄まっていくと、次第に一つの世界に近づいていく。座禅の世界の本質というのは一つの存在だという発見なんですね。お釈迦さんが天上天下唯我独尊の言葉を残したと言われていますが、それはこの世界が1つの生命体だという発見なんですよ。我々は別々に生きているように見えるけれども、実のところ酸素を吸収して二酸化炭素を出すという作業で生きている。

この酸素の供給は単独ではできず、地球が活動して酸素を生み出していますよね。この地球の活動というのは極めてデリケートで、太陽と地球の距離が1%でも違うと地球の生命体は全滅するような絶妙なバランスの中で生命体は生きている。その中で生み出されるのが我々で、生命体というのは全宇宙に広がっていくわけですね。そういう存在であると直感的に発見しているのが禅なんです。禅というのは決して宗教ではないですね。何かを信じるということではないんです。ブッダは、サンスクリット語で目覚めた人という意味で、気がついた

人のことをブッダと呼ぶんです。仏教の教えを知らなくても、座るという単純な作業をする

中で自然にその世界に近づいていく。リーダーとしての基本的な資質は、自分と他人の垣根を薄めていくこと。自然と全体のことを考えられることです。それに加えて、リーダーとしての資質の中に、全体を考えると同時に、新しいイノベーションとクリエイティビティがないといけない。他人との垣根がなくなると、自然と他人からの情報や考え方が入ってくる。

座禅によってアイデアが湧いてくる。僕なんかはあまり能力のない男なんだけれども、それでも座っていると、一回ごとに2つ3つ必ず浮かんできます。この前は、マイクロソフトのHRの人が来てくれて、「最近シリコンバレーの若い人たちが朝座ってるんです」と。彼らもやっぱりその効果に気づいているんです。もともと禅っていうのはインドから中国に、

中国から日本に来て、そしてそれがアメリカに伝わっていった。その本当の効果に彼らは

気がつき始めて、広まり、日本にやっと来た。


齊藤:2021年はマインドフィットネが日本中に広がっていく年になりますか?


山田:2021年で日本中にバーっと広がっていくとは思いませんけど、そういうものをみんなが認識して、再認識される非常に重要なターニングポイントになる気はしています。


齊藤:たしかに、40年前くらいには、エクササイズのジムが一般的でなかったのがいつの間にか広がって当たり前になりましたよね。特にビジネスマンのリーダーにとって、次に鍛えるべきは心ということですよね。


山田: ここで誤解しちゃいけないのは、全体のことを考えられる人って生まれつきそういう資質を持っている人は結構いるんですよ。歴史的に言うと、例えばガンジーとかリンカーンとか、チャーチルも多分そう。自然とそういう力を持っている人はいるわけだけど、リンカーンやチャーチルが座禅をやっていた話は聞きませんからね。それは元々ある素質。

僕がお付き合いしている中にも、この人は座禅をやらなくても元からリーダーとしての力を

持っているなと思う人も結構いますよ。ただね、そういう方々でも、座禅をやることでさらに磨かれる。


齊藤:先ほど「全体を考える」とおっしゃっていましたが、リーダーたちの「全体」とは

自分の会社という意味ですか?


山田:いや、もっと大きい。だんだん大きくなるんです。まずは自分の会社。「リーダー」と僕が言うときは、会社のトップではなく、自分で考えて会社のための意思決定をする人。だから極端に言うと、新入社員でも自分で考えて行動する、会社のために何らかの決断をするとなれば、それはリーダーなんですよ。100人以上の部下がいても、言われたことだけをやっているなら、それはリーダーじゃないと思っています。経営の話をすると、会社のためになることをしようとしても、会社は社会に貢献しないと発展しない。結局そこで社会に繋がっていくんですよ。ですから、SDGsとかもそうですけど、次第に世界が一つになっていくんですよ。そこのメリットを考えていかないと会社は発展していかない。

社会を考えていくには、やっぱり国、自然との一体感を考えていかないといけない。どんどん広がっていくわけですね。禅の世界というのは本質的に一つの生命体で、頭の中では次第にそういう感じで広がっていく。決して本をたくさん読んで理論的にこうしなくてはいけないということではなくて、自然にそうなっていくというところに瞑想の美しさがあります。


齊藤:なるほど。ありがとうございます。我々も、パーパスプランディングをやっているんですけれども、社会課題を解決できる会社でないと生き残れないと言っていて、まさにそこと繋がっているなと。


山田:そう思いますね。SMOの場合はどうしたらクライアントがメリットを得られるか、繁栄していくか、それがクライアントが繁栄するためにはどういう形で社会貢献できるかということに繋がっていくと思うんですよね。人間の存在っていうのはもともと繋がっていて、一つの世界だという視点から見ると、全ての道徳の基準は「一つの世界」「一つの生命体」から出てくるように僕には見えるんです。人を殺してはいけないという道徳の基本的な基準がありますよね。なぜ人を殺してはいけないのか?という問いに答えるのは、そう簡単

ではない。でも、今の僕の視点に立つと極めて明快なんです。もともと一つの生命体だっていう観点に立つと、殺すことはナンセンスなんです。一つの生命体がふたつに分かれて、自分で自分を殺すということだから。全ての基準はそこからきていますよね。「人のものを

盗んではいけない」「嘘をついてはいけない」も同じです。


齊藤:ビジネスマンの山田さんから見た2021年はどんな年になるんでしょうか?


山田:ビジネスマンという観点からいくと、コロナで非常に打撃を受けている人々もいると同時に、コロナによって新しい考え方やビジネスが生まれてきている面もあるわけですね。私はオフィス業界にいるわけですが、その観点で見ると、コロナによってテレワークが普及し、オフィスは要らないんじゃないかと言われていました。ところが、在宅だけで仕事をしていると、逆に人が集まることの重要性、オフィスの重要性が再認識された。

オフィスでしかできないこと、例えば人と人が集まって、自分たちの意見を共有するとか、

会社との一体感、人間と人間の絆を作るとか。そういう効果は目に見えないんだけれども、非常に大きな価値として存在するんじゃないかってなんとなく認識されてきていますよね。事実、我々の事業だとそういう需要が多いんですよ。ですから、一見コロナによって非常に打撃を受けているように見えるんだけれども、それがじわじわと新しい価値創造に繋がっていく面もあるんですね。ピジネスについては、私はあんまり悲観してないですね。もちろん飲食店とか観光業界とか、打撃を受けている方がいらっしゃることもわかっていますけれど、同時にコロナを経験することによって新たな価値創造が始まる。2021年は、ミックスされた形で次第に前向きな方向に動いていくんじゃないかなと。その間に、ワクチンが出てきて、次第に新しい世界になっていくんじゃないかという感覚を持っています。


齊藤:その時にリーダーに必要な考えとして、「全体を考える」以外に何かありますか?


山田: 時間軸ですね。どのくらい長いスパンで物事を見ることができるかということ。リーダーは足元の業績を良くしなければいけない。それはそうですよね。ただ足元のことだけやっているとやっぱりダメで、その先に何があるかが重要なんです。これは理想に聞こえるかもしれないけど、自分と他人の間の物理的な障壁が薄まって行くと同時に、観念で作り出した概念が薄まってくる。例えば、過去現在未来っていうのは人間が作り出した一種の観

念ですよね。どこに線が引っ張ってあるわけでもない。要するに、そういう時間の障壁をなくして、全体を一つの存在として考えないといけない。短期的なものでなく、逆に先に行きすぎることもなく、全体感のバランスが取れてパスことがリーダーとして必要なことだと思います。


齊藤:山田さんご自身はどれくらい先を見据えているのでしょうか?


山田:自分の会社のビジネスという観点でいうと、少なくとも5年先はかなり具体的なイメージを持っていて、10年先くらいは考えています。3年計画を今作っているところですけど、5年を見据えながら3年を作っていて、その先の10年ぐらいのスパンで先を見ながら

経営しているつもりです。少なくともこういう風にいきたいなと。自分の生命体としては、何を馬鹿なこと言っているんだと思われるかもしれないですけど、もっと長いです。僕はもう80歳ですが、僕の見ている世界でいうと80なんていうのはスタートしたばかりなんで。生命体ということについて、僕はちょっと見方が違うのかもしれないけど、見ている世界

は非常に長いです。


齊藤:それは、禅をしていく中でどんどん長くなっていったのでしょうか?


山田:長くなりましたね。それと、皆さんにはあまりピンとこないかもしれないけど、寿命ということ自体、一つの概念であって、実は存在しないんじゃないかと思っています。生まれて死ぬって、人間の考えた一つの観念なんですね。ですから、人間は基本的に死なない。

そういう本をいつか書こうかと思っていて、まだ始まっていないですけどね。(笑)


 

山田匡通(やまだ まさみち)

株式会社イトーキ 代表取締役会長

GlobalTreehouse株式会社共同創業者・取締役

ビジネスマンとして禅を極めた父・山田耕雲の指導により、鎌倉にて

幼少時より坐禅に親しむ。ビジネスキャリアを築く傍ら、禅の道

を追求。現在、宗教法人三宝禅の四代目管長を務め、禅を国際的に

広めることに尽力している。


慶應義塾大学卒業後、三菱銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。

1969年ハーバード・ビジネススクールでMBAを取得。

三菱銀行專務取締役、三菱証券(現三菱UFJモルガン・

スタンレー証券)代表取締役会長を歴任の後、2007年より

株式会社イトーキ代表取締役会長に就任、現在に至る。



AoyamaTreehouseは、"マインドフィットネス"と"イノベ―ジをテーマとした最もクリエイティブでグローバルなメンバーシップスペース。リーダーシップ育成、イノベーション、新たな働き方、

コラボレーションの強化を目指して、

メンバーには、マインドフィットネス、クリエイティビティやイノペーションを刺激するカリキュラム、起業家、イノペーター、アーティストなどを招いたワークショップやトークセッションなど、インタラクティブなブログラムが提供されます。

都会の中にありながら赤坂御用地が隣接する緑豊かな立地の中、ローマン&ウィリアムズによる自然素材を多用したデザインが施され、ユニークな空間を生み出しています。中でも、中央に配置された瞑想スペース「マインドフィットネス・ルーム」が特徴的。ここで提供される瞑想法「マインドフィットネス」は、精神を統一し、創造性、革新性そしてリーダーシップを譲成することを目的に、坐禅の基本形をペースに、山田匡通氏によって開発されました。「自分」という呪縛から解放され、外に向かって精神と心が自由に活動し自他の垣根が消えることによって、真のリーダーシップが育成されます。また、自身の心を強く鍛え、特定のタスクを達成するための集中力と活力がつくことで、ビジネスにおいて不可避な

決断やリスクに挑むための創造性と革新性が鍛えられます。

<※2022年更新:AoyamaTreehouseは閉館いたしました。>


AoyamaTreehouse(閉館)

〒107-0061 東京都港区北青山1-2-3

Aoyama Treehouse

青山ビル2階&3階 Tel:03-5413-4568

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